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競技ディベートの方法 (兼子)
1.論題(proposition)の種類
競技ディベートで使用しうる論題には、大きく分けて三種類ある。
- 事実論題proposition of fact… 「来年度の日本の経済成長率は1%未満だろう」など。
- 価値論題proposition of value … 「死の自己決定権があることは望ましい」など。
- 政策論題proposition of policy … 「日本政府は原子力発電をやめるべきである」など。
一般には、ゲーム・バランス、教育的効果、リサーチのしやすさなどの理由で政策論題が使用
されることが最も多い。
ESS系の各種ディベート大会や日本ディベート協会JDAの日本語ディベート大会、「ディベー
ト甲子園」などでも、政策論題が採用されている(付録1を参照)。
2.論題を立証/反証する
政策論題は、「○○は××すべし」という形式を取る。
この場合、論題に表される行為は、現実にはいまだ行われていない行為である。
いまだ行われていない行為を正当化するには、どうすればよいか。
- ある行為が行われたと「仮定して」、その結果、
- 行われなかった場合に比べると「変化」がおき、
- その変化が「望ましい」ものであった、
と論題を肯定する側のディベーター=肯定側が証明できたとき、つまり行為をなすことで「メ
リット(利点、利益)があるだろう」と証明したときに、論題は正当化される。
逆に言えば、
- ある行為が行われたと「仮定して」、その結果、
- 行われなかった場合に比べると「変化」がおき、
- その変化が「望ましくない」ものであった、
と論題を否定する側=否定側が証明できれば、つまり行為をなすことで「デメリット(不利益、
弊害)があるだろう」と証明したとき、論題は否定される。
例)「日本政府はタバコの使用・販売・輸入を禁止すべきである」
肯定側 → タバコが禁止された、と仮定すると、いままでタバコを吸っていた人はタバコが
すえなくなるので、タバコの有害物質を摂取しなくなり、その結果、彼らの健康
への被害がなくなるだろう。故にタバコは禁止されるべきである。
否定側 → タバコが禁止された、と仮定すると、これまでタバコの輸入・製造・販売によっ
て主な収入を得ていたタバコ会社は経営に大打撃を受け、倒産するだろう。その
結果、失業者が増え、彼らの生活は苦境に陥るであろう。だから、タバコは禁止
されるべきではない。
このように、ある行為がなされたと仮定して、それによって生じる変化を推測し検討すること
を、システム解析(system analysis)と呼ぶことがある。
この方法は、“ディベートの定義と論証”で紹介した「間接論証」の方法を用いたものであることに注意。
問題1;
例のタバコの論題で、上に挙げたものの他に肯定側・否定側でそれぞれ立てられそうな議論が
ないかどうか、考えてみよう。
問題2;
以下の場合には、論題が肯定されるかどうか、考えてみよう。
イ. 論題の行為を実行しても、メリットもデメリットも発生しないことがあきらかになった。
ロ.論題を実行したと仮定すると、メリットもデメリットもあることがわかった。
3.実際のディベートの形式(format)
競技ディベートにもいろいろな形式がある。今回はその中でも、1人対1人の
形式であるリンカーン・ダグラス・スタイルの、時間を短縮させたものを用いる。
(通常の活動ではESSの立論6分、反駁4分で行っています)付録2参照。
肯定側(立論) |
4分 |
質疑(否定→肯定) |
2分 |
準備時間 |
30秒 |
否定側(立論) |
5分 |
質疑(肯定→否定) |
2分 |
準備時間 |
1分 |
肯定側(第一反駁) |
3分 |
準備時間 |
1分 |
否定側(反駁) |
4分 |
準備時間 |
30秒 |
肯定側(第二反駁) |
2分 |
フォーマットの原則 … 両者のスピーチ時間が同じであること、肯定側で終わること
なぜ肯定側で終わるのか? … 肯定側に論題を正当化する責任がある分のバランス調整
スピーチは、大きく分けて立論(constructive
speech)と反駁(rebuttal)に分かれている。
- 立論…新しい論点をどんどん出していくステージ。
- 反駁…立論の議論をもとにして、反論・再反論・まとめなどを行うステージ。
反駁には二つのルールがある。
- 反論はできるが、新しい議論を反駁で出してはいけない(新出議論の禁止)。
- 反論できるときにしておかなかった場合、あとで反論しても無効になる(時宜に遅れた
反論の禁止)。
※ ここでいう「新しい議論」とは、そこから別の新しい議論が展開されうるような争点を提示
するということ。
4.各スピーチの役割
ここでは、3.で紹介したフォーマットに則って説明する。
@ 肯定側立論
論題を正当化する議論をここで提示する。具体的には、論題を採択したと仮定すると得ること
のできるメリットを提示する。
A 否定側立論
論題に反証するためには、否定側は以下の二種類の議論を立論する。
- 論題を否定するために、論題を採択したと仮定した場合のデメリットを提示する。
- 論題を正当化する論証を否定するために、メリットへの反論を提示する。
B 質疑
以下のような役割がある。
- 聞き取れなかったこと、理解できなかったことを確認する(最も基本的)
- 相手の議論の論拠や前提を確認する(次に自分がそこに反論するため)
- 相手の議論の矛盾やあいまいさを指摘する
C 肯定側第1反駁
否定側立論に反論するため、以下の二つの作業がある。
- 否定側が立論で提示したデメリットに反論する。
- 肯定側立論で示したメリットへの否定側の反論に再反論し、メリットの論証を立て直す。
D 否定側反駁、および肯定側第2反駁
両者ともに、最後のスピーチなので、共通する以下の三つの作業がある。
- 対立点となった個々の議論に関して決着をつける。
- その結果、メリットやデメリットがどうなったかを示す。
- メリットとデメリットを比較し、自分の立場が相手に対して優位であると示す。
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