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ディベートの定義と論証

1.ディベートの定義
2.ディベートの意義・目的
3.論証
3.1.論証の構造
3.2.論証の評価
3.3.面白い論証
3.4.論証を作ってみよう

例題の解答例

作成者:松村


競技ディベートの方法

1.論題(proposition)の種類
2.論題を立証/反証する
3.実際のディベートの形式(format)
4.各スピーチの役割

付録

作成者:兼子




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ディベートの定義と論証(松村)



.1.ディベートの定義

“ディベート”(Debate)=討論、“ディスカッション”(Discussion) =討論
(出典;大修館「ジーニアス」英和辞典など)

ディベートとディスカッションとの違い
ディスカッション…自由討論、つまり様々な立場から自由に意見を 述べ合う
ディベート…ある問題に対し、少なくとも2つの異なる立場の人が 論じあう

ゲームとしてのディベート:
ある一つのテーゼをめぐって、賛成と反対の立場に分かれて、
一定のルールの下で議論をやりとりし、勝敗を競う






2.ディベートの意義・目的

ディベート: 論証の応酬、議論のやり取り(argumentation)から勝敗が決まる適切な議論 (argument)を行えるようになること

根拠-論理と事実に基づく→他人と理解を共有できる
理由付けのある主張→理解、納得
妥当な議論による決定→合理的意思決定(決定手続きの妥当性)

すなわち、ディベート教育の意義は、議論が必要な場面で適切に 議論を行うことで、それは、民主主義的正義の要請である。

ちなみに、ディベートにおける副産物について多少言及する。

  • 論理的思考力
  • 説得的発話術
  • リサーチ能力
  • 時事問題への関心
これらの能力獲得はもちろん重要だが、これらの能力はディベートを 行う上で必要とされる能力であり、これらを目的にディベートを行うの ではない。
 ディベートを行う上で必要なことであるから、ディベートを通じてこれ らの能力は反復されることで向上はする。



3.論証

3.1.論証の構造


論証…ある結論に対して何らかの形で根拠が提示されているもの


本講義では、「論証図」を用いて、論証の構造を理解する。

例1. 一つだけの主張を根拠にして結論を支持する
(1)彼女は昨日徹夜みたいだよ。(2)だって、目にくまができていたもの。




例1の論証図


例2.複数の主張を根拠にして結論を支持する(結合論証)
(1)Aさんは北大生だ。だから、(2)貧乏なはずだ。だって、(3)北大生って貧乏な 人が多いんだもん。



例2の論証図


ちなみにこれは、典型的な三段論法である。

例3.複数の根拠で一つの主張を支持する(合流論証)
(1)子供にはTVなんか見せない方がいい。(2)目を悪くするし、(3)受動的になっ てしまうからだ。



例3の論証図


論証図作成にあたっての注意
結論を支持している根拠が、単独で成立しているか、組み合わせで成立しているのか に着目すること。

例題1 次の文章から論証の構造を取り出し、論証図を作成せよ
(1)犯人はAかBだ。しかし、(2)AはいつもCと仕事をする。(3)ときにはそれに Dも加わることがある。いずれにせよ、(4)今度の犯行ではCにはアリバイがあ る。だから、(5)Cは犯人ではない。ということは、(6)Aも犯人ではなく、(7)B が犯人だ。実際、(8)Bには動機もある。

解法
  1. 文章の結論を明らかにする
  2. その結論を直接的に支持する主張(根拠)を見つける
  3. 2の主張を支持する主張(根拠)を見つける (以降、遡れる限り遡る)
解答例はこちら




3.2.論証の評価


論証の適切さを評価する2つの観点
  1. 根拠となる主張の適切さ
  2. 導出の適切さ
1は根拠そのものが妥当であるかどうかを問う。2は根拠から結論を得るま での過程が妥当であるかどうかを問う。本講義では2に重点を置いて解説する。 論証構造を評価するためには…
  1. 論証図を作ってみる
  2. 根拠を仮に認めれば、結論は直ちに導かれるか考えてみる
2を実践するためのトレーニングとして、あえて反論してみることをやってみる。 具体的には、根拠を認めた上で、直ちに結論が導かれないことを示してみる。 この作業は、「反対のための反対」では決してない。議論を受け入れるか受け入 れないかを決定するために敢えて反論を試みるのである。反論が容易に出来れば 論証としては弱いし、困難であればあるほどその主張は妥当であり、蓋然性を持 つものとなる。これは、とりもなおさず「なんとなく」聞き流して、判断してし まうことへの決別なのである。

例題2 次の下線部に示された導出に対して反論を試みよ。

日本人は働きすぎだ。というのも、欧米と比較してみると、われわれの労 働時間の方がずっと長いからだ。

(考え方)
この文章の論証構造は次のようになっている。
(a) 日本人は働きすぎだ
(b) 欧米と比較してみると、われわれの労働時間の方がずっと長いからだ

(b)→(a)

解答例はこちら

練習問題1 次の下線部に示された導出に対して反論を試みよ。

たばこの煙が不快な人もいれば、それを快いと感じるから喫煙している人 もいる。(a)それゆえ、嫌煙権と喫煙権は同等の権利なのだ。(b)したがって、 いつでもどこでもたばこを吸う権利を認めるべきである。




練習問題2 次の下線部に示された導出に対して反論を試みよ。

子供はまだ合理的な判断を自ら為すことができない。(a)だから、大人が 子供に干渉することは不可欠である。しかも、現代社会では親子関係が十分 に機能しなくなっている。(b)それゆえ、学校こそが子供に干渉しなければ ならない。(c)だからこそ、中学や高校の段階でもかなりしっかりした校則 が必要なのである。




3.3.面白い論証

論証には、様々なものがある。ここでは、特にディベートにおける応用という見地から 興味深いものを2つ紹介する。


例題3 次の論証がなぜ不適当であるかを説明せよ。

どうも最近の大学生は自主的に何かをすることがないみたいだね。だって私の 甥が大学生なのだが、これがまた、人に言われなければ何もしないというやつ でね。




(解答例)
問題文の論証構造は以下のようになる。

(1)どうも最近の大学生は自主的に何かをすることがないみたいだね。
(2)私の甥が大学生なのだが、これがまた、人に言われなければ何もしない というやつでね。

(2)→(1) を仮に認めても(1)は直ちに言えない。なぜなら、たかだか自分の甥がそうだか らといって最近の大学生がそうだとは言えない。サンプルが少なすぎる。 (ここまで)




このような論証は推測と呼ばれ、上記のような導出は帰納という。
推測における着眼点は、

  • 仮説(結論)は根拠をうまく説明しているか
  • 他に仮説は考えられないか
  • 根拠であるサンプルは適切か
  • 一般化を誤っていないか
  • 前提となる法則は妥当か

例題4 次の文章の論証構造を示せ

(1)コメは日本人の主食であるから、(2)自給できなければならない。 しかし、もし(3)コメを自由化したならば、(4)日本のコメ農業には国際 競争力がないため、(5)壊滅状態になり、(6)自給不可能となるだろう。 それゆえ、(7)コメは自由化すべきではない。



この文章の結論は、「コメは自由化すべきではない」で、あって、その 結論を支持するために、「コメが自由化されたならば」と仮定し、その 帰結が望ましくないことを示している。
 このように、仮定を立て、その帰結を吟味することで結論の妥当性 を考察することを、「間接論証」と呼ぶ。このような論証構造はディベー トにおいて、頻繁に用いられる。このような論証においては、現実の話と 仮定の話とをきちっと区別しなくてはならない。したがって、論証図を 作成する場合にも、その区別を明瞭にする必要がある。



解答例はこちら


Cf.システム解析(system analysis)




練習問題3 次の論証がなぜ不適当であるかを説明せよ。

軍隊は危険だと考えている人がいるが、それは大きなまちがいである。事 実、わが軍隊の平均寿命は、わが国の平均寿命よりも高い。軍隊に入った方 がむしろ長生きできるのである。




練習問題4 以下の論証構造を示せ

(1)死刑にしてしまうと、(2)誤判の取り返しがつかないし、(3)犯罪を犯した者 を更正させることもできない。さらに、(4)そもそも死刑そのものが非人道的で ある。それゆえ、(5)死刑は廃止すべきだ。




練習問題5 以下の論証構造を示し、可能な限り反論を試みよ

(1)大学は4年間すべてを専門教育に費やすべきである。(2)最初の1,2年を教 養教育に費やしてしまうと、(3)一人前の専門家になるのがそれだけ遅れ、(4) その結果、学問が停滞しがちになるだろう。というのも、(5)学問を進歩させる ような新しい発想は若い時期に生まれるものだからである。





3.4.論証をしてみよう

問題 「今の子供たちは、大人に言われるままに行動しなくなってきた」という主張 を基にして、「子供たちに奉仕活動を義務付けるべき」という命題に対して、賛 成、反対の論証を作成せよ。余力があれば、それらに対して、予想される反論 を検討せよ。